■ポスト安倍の行くへ
一年後に迫る自民党総裁選に向けて党内の政局が慌ただしくなっている。安倍4選が囁かれる中で、政権の支持率が落ち込みポスト安倍レースが白熱してきた。今回はポスト安倍、ポスト安倍の次を見越した自民党内の政局について分析していく。
ポスト安倍レースで先行してきたのが宏池会の岸田文雄と水月会の石破茂。池田勇人を源流とする自民党の名門派閥として大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一と四人の総理大臣を輩出して、政界に一定の存在感を示してきた宏池会は、ハト派の外交・安全保障政策、緊縮財政を掲げる。保守本流の名門宏池会を率いるのが政調会長の岸田文雄である。岸田が党内の安倍批判を取り入れず、安倍裁定を待つ決断に至った背景には宏池会の苦い過去の記憶があるのではないか。世に言う加藤の乱である。当時の宏池会の領袖を務めていた加藤紘一が森内閣の不信任決議に同調する姿勢を示すと、野中広務幹事長始め、党執行部によって鎮圧された経緯がある。この加藤の乱で宏池会は二つに分裂した。岸田は加藤の乱の教訓から安倍、麻生の党内2大派閥の後押しを期待している。党内議員に支持を広げる一方で、党員、一般国民からの支持に広がりを欠く。国民世論が自民党に親和的であれば、キングメーカーの安倍の後押しにより順当に岸田政権が誕生するであろう。
岸田と相対する政治家が石破茂だ。石破は父の石破二朗の死去により、当時最年少で衆院議員になり、父親と同じ田中角栄に師事する。一度自民党を離れて、小泉内閣で防衛大臣などを歴任。2012年の総裁選では第一回投票で首位に立ち、地方票で安倍を上回ったが、国会議員による決選投票で安倍に破れた。第二次安倍内閣では党幹事長、地方創生相のポストにつた。石破は2015年に水月会を立ち上げポスト安倍候補として、安倍批判の受け皿になる。18年総裁選では反安倍の国民世論の後押しも及ばず安倍に二度目の敗北を喫した。そんな石破陣営が期待を寄せるのが、二階幹事長率いる二階派だ。風見鶏の二階は次を見越して石破派に急接近している。石破の弱みが党内基盤の弱さにあれば、強みは国民世論の後押しだ。今後、自民党の支持率が低迷を続ければ、打開策として石破政権もありうる。少なくとも総裁選出馬に必要な国会議員20人を確保する為にも二階派の抱き込みが重要になる。
●細田派に燻る不満と安倍四天王
かつて田中角栄がキングメーカーとして君臨した時代、田中派からは竹下登、金丸信を中心に自派閥からの総裁候補擁立を求める動きが活発化した。現在、最大派閥の細田派内からもポスト安倍に向けて、次の次を見越した動きが活発化している。安倍四天王の一人に挙げられる下村博文は父親を幼い頃に亡くして、板橋区議から第二次安倍政権で文科大臣まで登りつめた苦労人。国会閉会後に稲田元防衛相とともにコロナ後の社会のあり方を巡る勉強会を設立した。同じく安倍四天王の稲田朋美は安倍と政治信条が近く、第二次安倍政権では党政調会長、防衛相など要職を歴任。最近は野党時代の右派的論説を避けて、選択的夫婦別姓の容認などウイングを大衆に広げており、党内保守派からの反発を招いている。最後に、現在、経済再生相としてコロナ危機に対応している、西村康稔が挙げられる。2012年の総裁選でも若手ながら立候補しており、今回のコロナ危機で一気にメディアへの露出を増やした。一方でコロナ対応で総裁選レースから遠ざかったのが加藤勝信厚労相だろう。
●次の次を狙う河野太郎
安倍-麻生連合の支援を受けるのが麻生派の希望株の河野太郎だ。しかし、祖父の河野一郎は岸信介と岸政権後の自民党総裁の座を約束していた。しかし、約束は守られる事はなく、岸は池田に総裁の椅子を譲った。父の河野洋平は自民党総裁に登りつめるも、総理大臣にはなれなかった。果たして河野太郎はそんな河野家の屈辱を果たせるか。
父の河野洋平といずれも総理の椅子を逃してきた河野家の屈辱を果たせるか。